Windows95のお祭りは、テレビの向こう側だった
1995年、Windows95が発売された夜のことは、よく覚えています。深夜の家電量販店に行列ができて、カウントダウンで箱が売れていく。テレビは連日、お祭り騒ぎでした。
でも正直、僕には関係のない話でした。パソコンを使う仕事ではなかったし、そもそも「パソコンで何をするのか」がまったく想像できない。世間が「これからはITだ、インターネットだ」と騒いでいるのを、僕はまた例によって、テレビの向こう側の出来事として眺めていました。バブルのときと、同じ構図です。熱狂はいつも、僕の少し外側で起きている。
家電量販店の前の、白い紙袋
それから数年経った2000年代のはじめ。街の景色が、少し変わりました。家電量販店の前で、揃いのジャンパーを着た人たちが、白い紙袋を押し付けるように配っている。Yahoo!BBのADSLモデムです。「タダで配る」という前代未聞の商法で、日本中にブロードバンドをばら撒いていたあの光景は、あの時代を知る人なら誰でも覚えているはずです。
あの紙袋の山を見て、僕は生まれて初めて「パソコン、欲しいな」と思いました。
でも、すぐには買えませんでした。理由は単純で、買っても使い道がないんです。インターネットで何ができるのか、いまいち分からない。よく分からないもののために10数万円を出す理由が、当時の僕にはどうしても見つかりませんでした。今思えば健全な金銭感覚です。このあと僕は、その何十倍も「よく分からないもの」にお金を溶かすことになるのですが。
「株で儲ければ、パソコン代はすぐ回収できる」
そんなとき、世間でひとつの話題が広がります。「インターネットで、株の取引が簡単にできるらしい」。手数料の自由化でネット証券が次々に生まれ、雑誌もテレビも「ネット株」を取り上げはじめたころでした。
それを聞いた瞬間、僕の頭の中で、あの計算が成立してしまったんです。
——パソコンが欲しいから、株を始める。順番が、完全に逆だった。
普通は、投資がしたいから道具としてパソコンを買うのでしょう。僕は違いました。パソコンという買い物を正当化するために、株を始めたんです。「株はあぶない」と言われて育った僕が、その「あぶない」ものを、10数万円の出費の言い訳に使った。我ながら、見事な理屈のねじれです。
買ったのはWindows XPのマシン。回線は、皮肉なことにきっかけをくれたYahoo!BBではなく、フレッツADSLにしました。あの紙袋には、結局一度もお世話にならなかったわけです。
イー・トレード証券と、根拠のない大金持ちの夢
回線がつながって、僕はイー・トレード証券(いまのSBI証券です)で口座を開きました。営業マンと話すこともなく、店舗に行くこともなく、こども部屋から、クリックだけで。「あぶない」と言われ続けた株との距離が、モデム一本でいきなりゼロになりました。
そして白状すると——まだ一株も買っていないのに、僕はもう、大金持ちになれると思っていました。口座の開設完了メールを眺めながら、頭の中では、儲けたお金の使い道を考えていた。知識はゼロ。経験もゼロ。あるのは、開いたばかりの口座と、根拠のない自信だけです。
数百円の株と、数千円の儲けと
現実は、静かでした。
お金がないから、買える株が限られる。値段だけを見て、一株数百円の安い株を数銘柄。もちろんそんな選び方で買った銘柄が上がるわけもなく、大半はあっという間に含み損になって、そのまま塩漬け。たまに少し上がった銘柄があれば、怖くなってすぐ売る。手に残るのは、数千円の儲け。
大金持ちは、夢のまた夢でした。パソコン代の回収すら、遠い道のりです。でも当時の僕は、これを「まだ本気を出していないだけ」と思っていました。ちゃんと勉強すれば勝てるはずだ、と。そして手に取った一冊の本が、僕を「分かった気」にさせ、低位株のギャンブルトレードへと本格的にのめり込ませていくことになります。



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