南アフリカランドで600万円を溶かした話 ──「FX戦士くるみちゃん」を見て、FXを始める前に

コラム
ランド投資の基礎
その③
2026.09.07

10月1日から、FXを題材にしたアニメ『FX戦士くるみちゃん』の放送が始まります。原作は最後まで読みました。笑いながら読める人もいると思います。わたしは途中から笑えませんでした。同じことを、実際にやったからです。南アフリカランドで600万円を溶かして、最後に残ったのは6万円ほどでした。この記事は、そのときの自分が何をしていたのかを、いまの口座の数字と並べて書いたものです。

最初は、数千円で喜んでいました

はじめてFXで利益が出たとき、金額は数千円でした。それでも嬉しくて、何度も画面を見返しました。こんなに簡単にお金が増えるのか、と思いました。

そこからどんどんハマっていきます。原作を読んでいて、この流れが自分そのままだったので笑ってしまいました。数千円で喜ぶところから始まって、金額がだんだん大きくなって、いつのまにか生活の中心が相場になっている。順番まで同じでした。

最初に負けていたら、たぶんやめていました。
勝ったから、続けてしまった。

当時やっていたことは、いまとほとんど同じです

ここがいちばん伝えたいところです。600万円を溶かしたときのやり方と、いま毎日この日記に書いているやり方は、考え方としては同じです。

下がったら買う。上がったら売る。それだけです。手法を変えたわけではありません。同じ人が、同じ通貨で、同じことをやって、片方は600万円を失い、いまは1日500円ずつ拾っています。

違うのは2つだけでした。刻みの幅と、レバレッジです。

違い①:いくら下がったら買うか

いまは「500円下がったら1本買う」と決めています。1万通貨なら5銭ぶんです。

当時は数十円下がったら買っていました。含み損が数十円出たら、もう1本足す。1万通貨なら1銭も下がらないうちに次を買っている計算になります。刻みが10分の1以下でした。

刻みを細かくすると本数が増えます。本数が増えると、耐えられる下げ幅が減ります。ここは掛け算なので、数字で見るとはっきりします。

刻み 10円から8円まで下げる間に買う本数 34本目に到達する下げ幅
5銭(いま) 40本 1円70銭
1銭 200本 34銭
0.5銭(当時のイメージ) 400本 17銭

34本という数字は、以前この口座の大きさで数えたときの「8円まで買い下がっても耐えられる上限」です。0.5銭刻みだと、建値から17銭下がっただけでその上限に届きます。

当時のわたしは、これを数えていませんでした。「下がったから買う」を繰り返しているうちに本数が溜まり、少し大きく下げただけでロスカットになる。何が起きているのか分からないまま、その繰り返しでした。

違い②:スワップで生活費を稼ごうとしていた

当時、本気で思っていたことがあります。スワップで1か月の生活費が稼げたら、専業トレーダーになれる。

この夢がいくらかかるのか、いま計算してみます。ランド円のスワップは1万通貨で1日12円ほどです。

項目 数字
目標 スワップで月15万円
1日あたり 5,000円
必要な通貨量 約417万通貨(417本)
取引金額(9.79円換算) 約4,079万円
レバレッジ1倍で持つなら 元手 約4,079万円
元手600万円で持つなら レバレッジ 約6.8倍

600万円でこれをやると、レバレッジは6.8倍になります。ここで、そのレバレッジだとどこで退場になるのかを見ます。

当時のランド円は11円前後でした。その水準で買った場合、レバレッジごとにどこで退場になるかを並べます。

レバレッジ 11円で買った場合のロスカットライン 建値からの下げ幅
25倍(限界いっぱい) 10.776円 22銭(2.0%)
6.8倍(生活費を狙うと) 9.574円 1円43銭(13.0%)
5倍 8.980円 2円02銭(18.4%)
3倍 7.483円 3円52銭(32.0%)
2.23倍 6.200円 4円80銭(43.6%)
1倍 0円

生活費をスワップで賄おうとした時点で、11円で買っていれば9円57銭で終わりです。10%ちょっと下げただけで退場になります。

スワップで生活費、という夢は
そこに届く前に退場する設計になっていました。

そして実際に何が起きたかというと、こうです。

時期 ランド円
2014年ごろ 11円台
2016年1月 6.2円台
下げ幅 4円80銭(43.6%)

2016年1月の急落は「南アランド・ショック」と呼ばれました。中国経済への不安が発端です。2年かけて、じりじりと4円80銭下げました。

わたしは9円を切ることを、あまり考えていませんでした。8円台があるかもしれない、くらいには思っていました。6円は想定の外です。上の表を見ればわかるとおり、6.2円まで耐えるにはレバレッジ2.23倍以下でなければいけませんでした。スワップで生活費を狙った時点で、その3倍のレバレッジをかけていたことになります。

ロスカットのあと、また全力で買っていました

6円まで下がる途中で、何回もロスカットされました。そのたびに何をしたかというと、また買いました。ここまで下がったのだから、そろそろ上がる。そう思って、残った資金を全部入れます。

多少上がって、持ち直したように見える時期があります。ここで「やっぱり正しかった」と思ってしまう。そしてまた下がって、またロスカットされる。この形を何度も繰り返しました。

そのころの生活は、原作に描かれているものとよく似ています。心臓がバクバクして、携帯を開けたり閉じたりする。仕事中も上の空で、夜も眠れない。数字が気になって、他のことが何も手につかない。漫画を読んでいると、そのときの感じを思い出して苦しくなります。

この2年のあいだには、スイスフランショックもありました。2015年1月15日、スイスの中央銀行が「1ユーロ=1.20フラン」という為替の上限を突然やめると発表した日です。ユーロスイスが一瞬で崩れ、口座の残高がマイナスになった人が続出しました。追証が何百万、何千万という話がSNSに流れていたのを、よく覚えています。

当時のわたしは、それを他人事のように見ていました。ですが同じ期間に、自分の口座も同じことをされていたわけです。1日で終わったか、2年かけて終わったかの違いしかありません。

やってはいけないこともしました

正直に書いておきます。手を出してはいけないお金を口座に入れて、利益が出たら戻す、ということをしたことがあります。一時的に借りるだけだ、増やして返すのだから問題ない、と自分に説明していました。

マイナスが出ると、すごく悔しい。絶対に取り戻す、と思ってまた注文を出す。この繰り返しでした。

最後は南アフリカランドで負けすぎて、トルコリラに乗り換えました。一発逆転を狙って、そこで爆死しました。600万円あった口座に残っていたのは、6万円か7万円ほどです。1%ほどしか残りませんでした。

止まれたのは、反省したからではありません

ここが、この記事でいちばん書いておきたいところです。

わたしが止まれた理由は、意志でも反省でもありません。600万円まで戻すビジョンが、まったく見えなくなったからです。6万円から600万円は92倍です。どう考えても届かない。そこで何もかも嫌になって、手が止まりました。

逆に言うと、それまでは止まれませんでした。100万円のマイナスなら、取り戻せる気がする。200万円でも、まだいけると思う。取り戻せると思えているうちは、まだ買えるのです。まだ買えるから、また入れてしまう。

危なかったのは600万円を失ったことより、
失っていく途中、ずっと「取り戻せる」と思えていたことでした。

失った金額が小さいうちのほうが、止まりにくい。これは自分でも意外でしたが、そういう構造になっていると思います。

何年か触らずに、1000通貨から再開しました

そのあと、何年かFXをしませんでした。口座は残したままで、6万円ほどのお金もそのままです。銀行口座に戻すのが手間だったので、置きっぱなしにしていました。

再開したとき、ひとつだけ決めたことがあります。これ以上、入金しない。

これは我慢のルールではありません。「取り戻せると思う自分」を、あらかじめ封じておくための仕掛けです。入金できないなら、いくら悔しくても全力買いができません。意志で止まれないことは、もう分かっていました。

そして1000通貨から始めました。1000通貨のスワップは1日1.2円です。1か月で36円。専業トレーダーの夢からは、いちばん遠い場所からのやり直しでした。

いまの口座の数字

この記事を書いている2026年9月5日時点の、実際の数字です。

項目 数字
建玉 4本 40,000通貨
預託金残高 390,193円
証拠金維持率 2,472.88%
実効レバレッジ 約1.01倍
含み(スワップ込み) −2,644円
1日のスワップ 48円
2026年の確定損益 +72,130円

ロスカットは維持率50%で起きます。いまは2,472%なので、まだ49倍の距離があります。実効レバレッジは1.01倍です。当時の6.8倍とも、限界の25倍とも、まるで違う場所にいます。

1日のスワップは48円です。生活費に必要な417本には、いまの4本の104倍が要ります。あの夢には、いまも届いていません。届かせようとしないことにした、というほうが正確です。

これから始める人に、3つだけ

アニメを見てFXに興味を持った人が、もしここまで読んでくれたなら、3つだけ書いておきます。どれも、当時のわたしが数えていなかったことです。

①レバレッジは「何倍か」ではなく「何銭でロスカットか」で見る。25倍と言われてもピンときませんが、「20銭下げたら終わり」と言われれば分かります。見るのは、上の表の右の列だけで足ります。

②買い下がるなら、いくら下がるかではなく、何本たまるかを数える。刻みを10分の1にすると本数は10倍、耐えられる下げ幅は10分の1です。細かく買うほど安全に感じますが、逆です。

③入金の上限を、始める前に決める。負けたあとに決めることはできません。負けた自分は「取り戻せる」と思っているからです。決められるのは、まだ何も起きていないうちだけです。

FXのトレードはギャンブルです。
チャートを読むことはできません。
読めると思っても、それは自分の思い込みです。

これは、いまも毎日ランド円を持っている人間が書いています。やめた人の恨み言ではありません。ギャンブルだと分かったうえで、金額を絞ってやっている、というだけの話です。

当時のわたしは、チャートが読めると思っていました。読めていませんでした。いまも読めません。だから読まずに済むように、線をあらかじめ決めて、そこに来たら動くだけにしています。それでも当たり外れはあります。この日記には、外した日も全部書いています。

『FX戦士くるみちゃん』は、よく描かれていると思います。誇張されている部分はありますが、方向は合っています。面白いと思って読める距離にいるうちが、いちばんいい距離です。

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ロスカットの計算をもっと詳しく知りたい方は、レバレッジ別のロスカットラインを実際の口座で数えた記事があります。1000通貨のスワップが1日いくらになるかは、こちらの記事で1円単位まで出しています。

面白いと思って読める距離にいるうちが、いちばんいい距離です。 — こども部屋おじさん

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